血と暴力の国 ~神、運命~

モスがレイヨウ狩りをしていると、荒野に車が三台停まっているのが目に入った。周囲には死体があった。トランクには麻薬。そして現金。モスが金を持って帰ることから運命の歯車が回る。なくなった金を回収するために殺し屋のシュガ―がモスの後を追う。シュガ―が通った後には死体の山が築かれる。その凄惨な事件現場を調査し、謎の究明を急ぐ保安官ベル。

 

著者はコ―マック・マッカーシー。この小説は、コーエン兄弟によって、邦題は『ノ―カントリー』という名前で映画化もされている。

 

やはり純文学に分類されるだけあって、予想以上に危険で教条的な小説だった。前半は単純なストーリーだ。金を持って逃げるモス、それを追うシュガ―、その二人を追う保安官ベル。モスのパート、シュガ―のパート、ベルのパートというふうに入れ替わり立ち替わりに様々なパートが語られる。さらにベルの独白のパートが挿入されている。後半に入って、ベルの過去が語られるところから、話がやや教条的になってくるが、広がりも出てくる。独特の文体と、構成のわかりやすさから、スピーディに読み進めることができた。

 

この小説は運とか運命とかがキーワードでもある。

シュガ―は、悪というより、死という運命を運んでくる者、である。シュガ―に関わるものはほぼ死んでいく。

モスはその死という運命に囚われた者である。モスは傷つきながらも、シュガ―に決死の抵抗を見せる。

ベルはモスを助けようと奔走する。保安官の責務として。

 

 麻薬とか大金とかは、死という運命を運んでくる。この小説は、死というもの(こと)を抽象化して、実在として扱っている。そのような暗部が社会の網と存在しているのだ、と(例えば、この小説では、麻薬を扱っているのは石油会社だったはず)。そしてそのような網をなくそうとしてもそれは不可能で、せいぜい逃げることしかできないんだ、という話だと思う。とにかくそいつに関わらないように生きていくしかない、と。

 

ベルは結局、シュガ―を捕まえることができない。そして善良な市民を守ることもできなかった。モスは死に、その妻も死んだ。ベルはベトナムの時と同じく、責務を果たすことができなかった。ベルはこのことを敗北として捉える。だが、ベルは、ベルが責務を果たさなかったことで生き延びたとも言えるのだ。

 

最後にベルの夢の話がある。意味こそわからなかったけれど、幽かに救いの光が見えるような終わりかたをしていた。